賃貸物件の原状回復|国交省ガイドラインと費用負担の基礎
2026年9月4日
賃貸物件の入居者が退去する際、「原状回復(げんじょうかいふく)」の費用を誰がどこまで負担するかは、大家と入居者の間でトラブルになりやすいテーマです。「壁紙の張り替え費用を全額請求したら揉めた」「敷金の返還をめぐって対立した」という話は少なくありません。原状回復については国土交通省がガイドラインを示しており、費用負担の考え方が整理されています。この記事では、大家・オーナーの視点で、国交省ガイドラインに沿った原状回復と費用負担の基礎を解説します。
原状回復とは何か
原状回復とは、入居者が退去する際に、賃貸していた部屋を「借りたときの状態に戻す」ことを指します。ただし、ここで重要なのは、「入居時のまったくの新品同様に戻すこと」を意味するわけではないという点です。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、原状回復を「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。つまり、普通に生活していれば当然生じる汚れや傷みまで入居者に負担させるものではない、という考え方が基本になっています。
貸主負担と借主負担の基本的な区分
ガイドラインでは、損耗の原因によって費用の負担者を次のように整理しています。
| 区分 | 内容 | 負担者の考え方 |
|---|---|---|
| 経年変化・通常損耗 | 時間の経過や普通の使用で生じる劣化(日焼けによる壁紙の変色など) | 原則として貸主(大家)負担 |
| 故意・過失、善管注意義務違反 | 入居者の不注意や手入れ不足による損耗(結露を放置して生じたカビなど) | 原則として借主(入居者)負担 |
例えば、家具の設置による床のへこみや、テレビ・冷蔵庫背面の電気焼け(黒ずみ)などは通常損耗とされ、原則として大家負担と考えられています。一方、飲み物をこぼしたまま放置して生じたシミや、ペットによる柱の傷などは、入居者の負担とされる場合があります。
民法改正で明確化された考え方
2020年に施行された改正民法では、賃借人の原状回復義務について、「通常の使用によって生じた損耗や経年変化は原状回復義務に含まれない」という考え方が明文化されました。これにより、ガイドラインで示されてきた費用負担の原則が、法律上もより明確になっています。
大家としては、通常損耗や経年変化にあたる部分の費用まで入居者に請求すると、トラブルや敷金返還をめぐる争いにつながりかねません。何が入居者負担で何が大家負担かを、ガイドラインと契約内容に沿って整理しておくことが重要です。
特約を設ける場合の注意点
ガイドラインの原則とは異なる負担を、契約の特約で定めること自体は可能とされています。例えば「ハウスクリーニング費用は借主負担とする」といった特約です。ただし、こうした特約が有効と認められるには、一般に次のような条件が求められるとされています。
- 特約の必要性があり、内容が合理的であること
- 入居者が特約の内容を認識し、負担することに合意していること
- 借主に一方的に不利で、暴利的でないこと
特約があるからといって、経年変化や通常損耗まで無制限に入居者へ負担させられるわけではありません。特約を設ける場合は、契約時に内容を明確に説明し、書面で合意を得ておくことがトラブル防止につながります。
トラブルを防ぐための実務ポイント
原状回復をめぐるトラブルを未然に防ぐには、日頃からの記録と情報共有が有効です。
- 入居時のチェック:入居時に部屋の状態を写真やチェックシートで記録し、入居者と共有しておく
- 契約内容の明確化:原状回復の範囲や特約の内容を契約書に明記し、入居者に説明する
- 退去時の立会い:退去時に入居者と一緒に状態を確認し、負担区分について認識を合わせる
こうした実務を管理会社と連携して進めることで、退去時の請求がスムーズになります。管理会社の役割については 退去時の原状回復トラブルと管理会社の役割 で、管理会社の選び方は 賃貸管理会社の選び方|大家が比較すべきポイントと注意点 で詳しく解説しています。
まとめ
原状回復は、「入居者の故意・過失による損耗は借主負担、経年変化や通常損耗は貸主負担」という国交省ガイドラインの考え方が基本で、改正民法でもその原則が明確化されています。大家がこの区分を正しく理解し、入居時からの記録や契約内容の整備を進めておくことが、退去時のトラブルを防ぐ最も確実な方法です。判断に迷う場合は、ガイドラインを参照しつつ、管理会社や専門家に相談しながら対応していきましょう。