敷金・礼金・更新料の基礎と近年の動向
2026年9月5日
敷金・礼金・更新料は、賃貸借契約に伴ってやり取りされる代表的な一時金です。大家にとっては収入や担保の一部である一方、入居希望者にとっては初期費用・継続費用の負担そのものであり、設定のしかたが入居の決まりやすさに直結します。また、敷金は2020年施行の改正民法でルールが明文化されるなど、法的な位置づけも整理が進んでいます。この記事では、それぞれの意味と法的な扱い、近年の動向、大家としての設定の考え方をまとめます。
敷金:担保として預かるお金
敷金は、家賃の滞納や入居者の負担すべき原状回復費用など、賃貸借に基づいて入居者が負う債務を担保するために、大家が預かるお金です。2020年4月施行の改正民法では敷金の定義が明文化され、賃貸借が終了して物件の返還を受けたときは、敷金から入居者の未払債務を差し引いた残額を返還しなければならないことが明確にされました。
ここで重要なのは、差し引けるのはあくまで「入居者が負担すべき費用」に限られる点です。経年変化や通常の使用による損耗の回復費用は原則として大家負担であり、敷金から当然に差し引けるものではありません。この区分を誤ると敷金返還トラブルに発展しやすいため、国土交通省のガイドラインに沿った精算が基本です。詳しくは 賃貸物件の原状回復|国交省ガイドラインと費用負担の基礎 で解説しています。
なお、関西などの一部地域には、預かった敷金(保証金)から一定額を返還しない「敷引き」という慣行もあります。敷引特約は、金額が高額すぎるなど入居者に一方的に不利な場合には効力が問題となり得るため、設定する場合は金額の合理性と契約時の説明が重要です。
礼金:返還されない一時金
礼金は、契約時に入居者から大家へ支払われる、返還を予定しないお金です。法律上の定義がある制度ではなく、慣行として続いてきたものです。地域や物件によって「家賃1〜2か月分」とする例が多く見られますが、礼金ゼロの物件も増えています。
大家にとって礼金は募集経費などを補う収入になりますが、入居希望者から見れば純粋な初期費用の増加です。競合物件が礼金ゼロで募集している中で礼金を設定すれば、その分決まりにくくなる可能性があります。空室期間の逸失収入と比較して、礼金を取るか、下げて早期成約を狙うかを判断するのが実務的です。
更新料:契約更新時の一時金
更新料は、契約更新の際に入居者から支払われる一時金で、これも法律で定められた制度ではなく、地域慣行によるものです。更新料の慣行が根付いている地域と、ほとんど見られない地域があり、金額も家賃1か月分程度とする例から半月分程度までさまざまです。
更新料特約の有効性については、最高裁判所が2011年(平成23年)7月の判決で、賃料の額や更新期間に照らして高額にすぎるなどの特段の事情がない限り、契約書に明確に定められた更新料条項は有効と判断しています。つまり、契約書への明記が前提であり、金額の相当性も問われるということです。設定する場合は、契約書に金額・支払時期を明確に記載し、契約時にきちんと説明しておくことが欠かせません。
近年の動向と設定の考え方
近年は、入居希望者の初期費用への関心の高まりから、「敷金・礼金ゼロ」をうたう物件が一定の割合を占めるようになっています。ただし、ゼロにすれば決まりやすくなる一方で、次のような影響も考慮が必要です。
- 敷金がないと、滞納や原状回復費用の担保がなくなる(保証会社や退去時精算の仕組みで補完するのが一般的)
- 短期解約のリスクが相対的に高まる場合がある(短期解約違約金の特約で補完する例もある)
担保機能の補完としては家賃保証会社の活用が広がっています。仕組みは 家賃保証会社(保証委託)の仕組みと選び方 を参考にしてください。また、一時金の設定は家賃とのバランスで考えるものです。総合的な募集条件の組み立ては 家賃設定と家賃見直しの考え方|相場の調べ方 もあわせてどうぞ。
まとめ
敷金は改正民法で返還ルールが明文化された「担保のためのお金」、礼金・更新料は法律上の制度ではなく慣行に基づく一時金で、更新料は契約書への明確な定めと金額の相当性が有効性の前提になります。設定にあたっては、地域の慣行と競合物件の条件を踏まえ、初期費用の重さが空室期間に与える影響まで含めて判断しましょう。契約書の条項づくりや精算をめぐる判断に迷う場合は、管理会社や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。